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第二回:IFRSの特徴

 

三回にわたってIFRS(国際財務報告基準)の解説をします。

今回は第二回「IFRSの特徴」を解説します。

前回「IFRSとは」の終わりに「実際に導入された企業の事例を用いて解説致します」と書きましたが、2010年3月期決算でIFRSでの財務諸表開示をした企業は、実は、1社しかありません。その1社というのは日本電波工業株式会社です。2002年3月期からIFRSでアニュアルレポート(海外向けの年次報告書)の開示をしていたので、IFRS国内第一号の栄誉を獲得したということです。

その財務諸表を含む「有価証券報告書」は、金融庁のEDINET で電子開示されておりますので、誰でも無料で入手することができます。

【EDINETの利用方法】

EDINET のWebサイトを開き「閲覧」の「有価証券報告書等」のボタンを押します。
「提出者検索画面」が表示されるので、「提出者EDINETコード」にE01807を入力して「検索」ボタンを押します。
「提出者検索結果画面」が表示されます。
「EDINETコード」欄の「E01807」をクリックすると「提出者書類詳細表示画面」が表示されます。
「提出日」がH22.06.25の「有価証券報告書 ‐ 第69期(平成21年4月1日 ‐ 平成22年3月31日)」が記念すべきIFRS国内第一号のデータです。
「PDF」ボタンをクリックしてPDF版をダウンロードして利用すると便利です。

このPDFの41ページからの連結財務諸表がIFRSに従って作成されたものです。
この財務諸表を見てみると、いくつかの相違点に気づかれるでしょう。

【財務諸表の名称の違い】

日本基準 IFRS
貸借対照表 財政状態計算書
損益計算書 包括利益計算書
株主資本等変動計算書 持分変動計算書
キャッシュ・フロー計算書 キャッシュ・フロー計算書
経理関係の人には、貸借対照表、損益計算書が基本用語になっていますが、IFRSでは基本から変わってしまいます。もちろん、日本基準もIFRSとのコンバージェンスが進みますと、最終的には財務諸表の名称がIFRSと同じになります。連結損益計算書については日本基準でも2011年3月期より包括利益を表示する形式になります。
 
「貸借対照表」という名称は、複式簿記に由来した名称で、一般の人には意味不明な専門用語と思います。IFRSでは「理解可能性」を質的特徴の一つとしていて、このような用語も見直しされています。
損益計算書に代わる「包括利益計算書」というのは、従来の当期純利益の計算に加えて、その他有価証券評価差額や繰延ヘッジ損益といったリスクが残る未実現の損益(OCI: Other Comprehensive Income:その他の包括損益)を加えた損益を表示する財務諸表です。日本基準と異なり、特別損益のような区分表示をしません。当期純利益以外の損益も包括的に表示することで、経営者による恣意的な経理操作を防ぐ目的があります。
IFRSでは「信頼性」が質的特徴の一つとなっています。

日本電波工業の財務諸表を細かく見てみると、日本基準とは異なる勘定科目の名称が記載されていることに気づかれるでしょう。

【勘定科目の違い】

日本基準の勘定科目 IFRSの勘定科目
現金及び預金 現金及び現金同等物
受取手形及び売掛金 営業債権
固定資産 非流動資産
無形固定資産 無形資産
支払手形及び買掛金 営業債務その他の未払勘定
未払法人税等 未払法人所得税等
退職給付引当金 従業員給付
純資産の部 資本の部
販売費及び一般管理費 販売費及び一般管理費
研究開発費
その他の営業収益
その他の営業費用
法人税等 法人所得税費用
日本基準では貸倒引当金という引当金がありますが、IFRSでは引当金とは認められず、債権から直接控除し、注記することになります。
日本基準の損益計算書にある経常利益、特別利益、特別損失の表示がIFRSでは無いのですが、IFRSでは区分表示に否定的です。特別利益、特別損失となる過年度損益修正は、過去の財務諸表を修正(遡及修正)するのです。日本基準でも、2011年4月1日以後開始事業年度から過年度遡及修正の適用となります。
また、日本電波工業の財政状態計算書には、「資産除去債務」が計上されていますが、日本基準では2010年4月1日以降開始する事業年度から「資産除去債務に関する会計基準」が適用されます。

このように見てみると、IFRSの財務諸表は日本企業にとって、財務諸表の未来形のように受け取れます。日本電波工業の財務諸表をじっくり研究して、将来のIFRS強制適用に備えるための参考にしてみてはいかがでしょうか。

【細則主義と原則主義】

IFRSの特徴として、まずあげられるのは原則主義です。
米国基準や日本基準は細則主義(rule base)、IFRSは原則主義(principle base)と言われます。
IFRSでは、資産とは「過去の事象の結果として当該企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該企業に流入することが期待される資源である」と定義され、負債は「過去の事象から発生した当該企業の現在の債務であり、これを決済することにより経済的便益を包含する資源が当該企業から流出する結果になると予想されるもの」と定義されています。
日本の財務諸表規則では「第十五条 次に掲げる資産は、流動資産に属するものとする。」と例示が書いてあるだけで、流動資産自体の定義は規定されていないのです。企業会計原則にも同様に定義がありません。IFRSでは、例示で判断するのではなく、定義に従った判断が求められることになります。
実際に企業が財務諸表を開示する際には、会計基準とは別に「開示基準」と分類される規則があります。日本には、金融庁の開示府令(金融庁は内閣府の外局)や東京証券取引所の適時開示基準が開示基準に該当します。IFRSになったからといって、細則が全て無くなる訳ではないのですが、どこの国で使用されても利用可能なように、IFRSはつくられていると見ることができます。

【業種別会計基準が無い?】

日本には20を超える業種に適用される規則がありますが、IFRSには業種別の会計基準がありません。農業(IAS第41号)、保険契約(IFRS第4号)、工事契約(IAS第11号)といった業種に関連する会計基準はありますが、特定業種にのみ適用されることは無いのです。IFRSでは、建設業だからとか、小売業だからといった業種分類で会計基準が適用されるのではなく、取引の実質的な内容に従って判断し適用されることになります。そもそも、業種の分類は国によって異なるので、国際会計基準にはなじまないのです。

【フレームワークの存在】

IFRSには財務諸表の作成及び表示に関するフレームワーク(枠組み)があります。将来の国際会計基準の開発、現行の国際会計基準の見直し等に利用されるもので、以下の事項が取り扱われています。
  • (a)財務諸表の目的
  • (b)財務諸表における情報の有用性を決定する質的特性
  • (c)財務諸表を構成する要素の定義、認識及び測定
  • (d)資本及び資本維持の概念
このフレームワーク自体は、IFRSの一部ではなく、IFRSの各会計基準に優先するものでもありませんが、会計基準の考え方の方向性を理解する上で重要なものと言えます。

【企業間の比較可能性を確保】

フレームワークの 「(b)財務諸表における情報の有用性を決定する質的特性」は、

  1. 理解可能性
  2. 目的適合性
  3. 信頼性
  4. 比較可能性

以上の4つとなっています。
4つ目の「比較可能性」に注目しますと、日本基準では「期間比較」という意味での比較可能性に配慮してきました。上場会社の財務諸表は2期比較になっていて、過去の財務諸表と比較できるようになっています。IFRSでは、期間比較に加えて企業間の比較可能性も確保できるようになっています。

前出の金融庁のEDINETには、日本の証券市場に上場している外国企業のIFRSで作成された財務諸表が掲載されています。70社分以上ありますが、ダウンロードできるようにPDF化されているものが少なく、その上、記載されている各社の勘定科目はバラバラという状態で、とても企業間比較できるような状況ではありません。では、どうやって企業間比較できるようにするのかというと、XBRL(eXtensible Business Reporting Language:拡張可能な事業報告用言語)と呼ばれるXML形式の財務諸表データで電子開示することにより、比較可能となります。日本の上場会社は2008年4月以降XBRL形式の財務諸表データをEDINETで開示していますが、勘定科目はEDINETタクソノミと呼ばれる辞書ファイルに登録された勘定科目を使っているので比較可能となっています。IFRSにも、IFRSタクソノミという辞書ファイルがあって、勘定科目の統一がされています。このIFRSタクソノミは、アラビア語、中国語(簡体字)、オランダ語、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語の8ヶ国語対応版に続いて、2010年3月30日に日本語対応版の辞書も公表されました。IFRSタクソノミを使うことで、日本語の財務諸表を他の8ヶ国語に切り替えて表示することができるのです。

【資産・負債アプローチ、公正価値による評価】

既に死語になってしまいましたが、会計ビッグバンが始まる前の古い日本基準では、当期純利益の計算が中心となっていました。貸借対照表は各期の損益計算の連結環という考え方で、時価評価は例外的でした。IFRSでは、公正価値という時価での評価を積極的に取り入れています。損益計算書に代わる包括利益計算書では資産・負債の変動の差額から包括利益を計算しますので、資産・負債アプローチとも呼ばれています。包括利益計算書の最終行に表示されるのは当期利益や当期未処分利益ではないですし、当期利益の表示を無くすべきという議論もされているのです。

次回の第三回は「IFRSが日本企業に及ぼす影響と対応」について、特にIFRSに対応する上で膨大な作業になる事項、基幹業務システムに影響のある事項を中心に説明させて頂きます。
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