ホーム > ブレイクタイム > 先人に学ぶ > 読書感想文 #0080 『グローバル社会の国際的なコミュニケーション』

『グローバル社会の国際的なコミュニケーション』

 
「レトリックのすすめ」野内良三著、大修館を読んでみた。レトリックとは、辞書によると修辞学(三省堂、新明解国語辞典)と出ているが、著者によると説得術(うまく話す技術)であるという。ヨーロッパ文化の基底には、人間対人間(個人主義)があり、この緊張した対立のスタンスがヨーロッパ文化を導き、レトリックの技術を向上させたという。「和をもって貴しとなす」という思想で個人よりも集団が重要であった日本人にとっては、レトリックの出る幕はなかった。ところが、グローバルな社会になり、国際的なコミュニケーションが必須になってくると、「説得」の必要性が上がってきた。また、相手に対して自分の立場や思いを明確に主張することが、現代のビジネス社会においても多く求められるようになってきた。しかし、日本においてはレトリックは一つのカテゴリーとして正当に教えられてこなかった。私自身振り替えると、相手を説得する為の説得術として、言葉の言い回しを変えるという訓練を受けた記憶が乏しい。レトリックというのは、一種の比喩表現に過ぎないと思っていた。
著書は、「レトリックは実学である」と言い切る。レトリックは、「役に立つ学問として」この世に生を享けたという。レトリックの語源は、ギリシア語の「(テクネー)レートリケー」に由来しており、「弁論の(技術)」という意味だそうだ。つまりレトリックはもともと実用的な「技術」であり、役に立たなければその存在理由は無いという。
本書では、そのレトリックの手法を1.誇張する、2.喩える、3.対照する、4.ほのめかす、5.ぼかす、6.繰り返す、7.追加する、8.省略する、9.移動する、10.呼びかける、11.驚かす、12.引用する、の12に分けて、その場面での表現方法を日本の文芸作品(文例は平安朝から村上春樹の「海辺のカフカ」にいたる古今の小説、エッセー、評論、演劇など幅が広い)を例として抜粋し、その使われ方と効果を検証する。文例の文芸作品は、夏目漱石の「吾輩は猫である」など有名な名文が掲載されているので親しみ易い。文例の選択に際して著者は、レトリックという物差しだけではなく、内容的にも深いものを選んだという。
例えば、6.繰り返すでは、反復法として、同じ(ような)音、あるいは同じ(ような)の語句を繰り返すことで強く感覚に訴える手法の例として、「松島や ああ松島や 松島や」を上げている。テクニックそのものは単純であるが、繰り返すことによってリズムが生まれて、独特な文体的効果を発揮するという。この句は誰もが、一度は耳にしたこともある俳句であるが、「松島や」を3回繰り返すことにより、松島の絶景に感銘を受けた様子が読み手に伝わってくる。このように、普段、レトリックという意識を持たずに文芸作品に接していると、その言い回しや表現方法の効果というものを感じずに読み飛ばしてしまいがちだが、本書で紹介されているその実例と解説を読むことにより、作者の意図やそのテクニックを知ることが出来る。
最近、書店に行くと、相手に伝える話し方の技術や説得術、わかりやすい話し方、文章術等の本がたくさん置いてある。多くの人が、日本語の表現方法に不安を抱いているということがわかるが、著者は、この問題に対する処方箋は、良い日本語を読み、出来れば暗唱して、日本語の良さを感得することただ一つだと述べている。
本書からレトリックの方法を学び使ってみることで、コミュニケーションの活性化がはかれるのではないかと教えられた。

次回は、「天体の回転について」コペルニクス著 矢島祐利訳 岩波文庫です。

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